2025年、坂口志文(さかぐち・しもん)さんがノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
この受賞を機に、「制御性T細胞(Treg)」や「免疫の抑え方」に注目が集まっています。
坂口さんの研究は、人体の中に「免疫を抑えるしくみ」が存在することを明らかにし、がん、自己免疫疾患、移植治療など、多くの医療分野に希望をもたらしました。
この記事では、坂口志文さんの学歴や研究実績を紹介しながら、その画期的な発見の意義と今後の展望について解説します。
坂口志文の学歴:京都大学から大阪大学IFReCへの軌跡

坂口志文さんの学術的キャリアは、京都大学医学部から始まりました。
県立長浜北高校卒業後、
- 1976年:京都大学医学部医学科卒業
- 1976年5月:医師免許取得
- 1976年4月:京都大学大学院医学研究科進学
- 1983年:京都大学で医学博士号取得
坂口さんは当初、医師としてのキャリアを歩み始めましたが、次第に研究者としての道に進んでいきました。
博士論文のテーマは「胸腺摘出によるマウスの自己免疫性卵巣炎に関する実験免疫学的研究」で、すでにこの時点で免疫学への深い関心が窺え
その後の主な経歴は以下の通りです:
- 京都大学 再生医科学研究所 教授、所長を歴任
- 2011年:大阪大学IFReC(免疫学フロンティア研究センター)実験免疫学分野 教授に就任
- 2013年:大阪大学 特別教授の称号を得る
このように、坂口さんは京都大学で基礎を築き、その後大阪大学IFReCで革新的な研究を展開していきました。
制御性T細胞(Treg)の発見:坂口志文が解明した免疫の「ブレーキ」

坂口志文さんの最も重要な研究成果は、「制御性T細胞(Regulatory T cells、略称 Treg)」の発見です。
これは、免疫システムに「ブレーキ」の役割を果たす細胞群の存在を明らかにした画期的な発見でした。
1995年、坂口さんは「T細胞の中に、免疫反応を抑える”抑制的”なグループがある」という仮説を立て、実験によってそれを証明しました。
具体的には、マウスからCD4⁺CD25⁺という特徴を持つT細胞を除去すると、自己免疫疾患が発症することを示しました。
この発見の意義は非常に大きく、従来の免疫学では主に「攻撃力」に注目していたのに対し、坂口さんは「抑える力」の存在を明確に示したのです。
これにより、免疫システムの理解が大きく進展し、様々な疾患の新たな治療法開発への道が開かれました。
FOXP3遺伝子との出会い:Tregを支える司令塔の発見
Tregの発見に続いて、坂口さんはその機能を分子レベルで説明する重要な発見をしました。
それが、FOXP3(フォックスP3)遺伝子との関連です。
FOXP3遺伝子は、Tregの発生・安定性・機能維持に不可欠であることが明らかになりました。
つまり、Tregという「免疫を抑える細胞」を司る「司令塔」としてFOXP3を位置づけたのです。
この発見は、重篤な自己免疫疾患であるIPEX症候群の原因解明にもつながりました。
IPEX症候群はFOXP3遺伝子の変異によって引き起こされることが分かり、Tregの重要性がヒトの疾患でも証明されたのです。
その後の研究では、FOXP3の制御ネットワーク、エピジェネティクスとの関わり、Tregの安定性と可塑性など、より詳細なメカニズムの解明が進められています。
坂口志文の研究実績:自己免疫疾患からがん治療まで広がる応用
坂口志文さんの研究は、基礎免疫学の枠を超えて、様々な疾患の治療法開発に大きな影響を与えています。
自己免疫疾患やアレルギーの分野では、Tregを増やしたり強化したりする治療戦略が考案されています。
例えば、関節リウマチ、1型糖尿病、多発性硬化症などの治療に応用される可能性があります。
一方、がん免疫療法の分野では、逆にTregを抑制する戦略が注目されています。
がん組織にTregが多く集まると予後が悪くなることが知られており、腫瘍局所でTregを選択的に抑制する方法が研究されています。
さらに、移植医療の分野でも、Tregの機能を活用した研究が進められています。
移植臓器に対する免疫反応を穏やかに抑制し、拒絶反応を防ぐ新しいアプローチが期待されています。
このように、坂口さんの研究は幅広い医療分野に革新をもたらす可能性を秘めています。
まとめ:ノーベル賞受賞者・坂口志文が切り拓く免疫学の未来
坂口志文さんの研究キャリアは、京都大学医学部での学びから始まり、大阪大学IFReCでの革新的な発見へと続きました。
Tregの発見とFOXP3遺伝子の重要性の解明は、免疫学の常識を覆す画期的な成果でした。
これらの研究成果は、自己免疫疾患、アレルギー、がん、移植医療など、幅広い医療分野に新たな可能性をもたらしています。
2025年のノーベル生理学・医学賞受賞は、坂口さんの研究が医学界に与えた多大な影響を象徴するものと言えるでしょう。
今後は、Tregを活用した個別化免疫療法や、がん免疫療法との融合、さらには予防医学への応用など、さらなる展開が期待されます。
坂口志文さんの研究は、私たちの健康と医療の未来を大きく変える可能性を秘めているのです。
坂口志文さんの研究は、基礎医学と臨床応用をつなぐ重要な架け橋となっています。これからの医療の発展に、大きな期待が寄せられていると言えるでしょう。
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